気づいた人からきれいになれる。

NEW2019.7.11

第3回

南半球と北半球、二つの季節を行き来する不思議と愉快 その1

life style

文・小島慶子

 「オーストラリアと日本を行き来する暮らしなんて、大変ですね」とよく言われます。そうですよね、毎月片道8000キロの旅をするわけですから、何やら大変そうに見えるのももっともだと思います。
 ところが、実はそうでもないんですよ。慣れてしまえば、フライト自体は電車に乗るのとさほど変わらない感覚です。
 私が暮らす西オーストラリアのパースまでは直行便がないので、東京から香港まで5時間ぐらい飛んで、さらにそこからパースまで、7時間あまり。だけど寝てしまえば、体感時間は一瞬です(笑)。時差はたったの1時間なので、時差ボケすることもありません。朝、日本を出たら、夜にはパースです。
 一日ゆっくり本を読んで、昼寝しながら8000キロを移動するのは、考えようによっちゃ結構な贅沢。エコノミークラスの座席でも、しっかり熟睡できるようになりました。乗り換えの時に香港の空港で食べるラーメンも、楽しみの一つです。
 ただ、北半球と南半球は季節が逆なので、気温の差があります。これがなかなかしんどいのです。日本が厳寒期の2月は、特にきつい。日中の気温が10度を切るような東京から、暑い日には40度にもなるパースに着くと、決まって夏バテしてしまいます。で、ようやく体が慣れた頃にまた東京に戻って、あまりの寒さに震え上がって風邪をひくのがお決まりのパターン。今年の2月も喉をやられて、寝込みました。出稼ぎ中は東京で一人暮らしですから、熱を出したりすると心細くてなりません。
 フライトの際の服装にも工夫が必要です。基本は、Tシャツに薄手のジャージ素材のロングスカートか、ウール入りの薄手のロングワンピース。足元は柔らかいレザーのフラットシューズです。
 日豪どちらかが冬の時は、これに小さく畳めるダウンジャケットとタイツが加わります。機内は一年中冷蔵庫みたいに寒いので、パーカーとカシミヤのストールも手放せません。おかげで手荷物は服でいっぱい!
 今は、日本は初夏で、オーストラリアは秋。気温は同じくらいだから、服装もそのままでOKです。東京の桜が終わり、若葉の季節になる頃には、パースでは街路樹のプラタナスが黄葉して、ちょっとロマンティックな雰囲気に。天気のいい日には、まだ海に入る人もいます。真夏のような日差しが和らいで、海はまだ温かく、むしろ夏よりも泳ぐのにはいい季節。私も執筆の合間に近所のビーチに行っては、柔らかなターコイズブルーの波に足を洗わせ、水平線を眺めて、しばし現実を忘れます。
 こんな行ったり来たりの生活をしていると、だんだん季節がわからなくなります。いまが春なのか秋なのか、すぐには思い出せないのです。「ええと、これから寒くなるんだっけ、暑くなるんだっけ?」

こじまけいこ

こじまけいこ/1972年生まれ。エッセイスト、タレント。学習院大学を卒業後、1995年TBSに入社。2010年退社。テレビ・ラジオ出演、連載多数。著書に小説『ホライズン』(文芸春秋社)、『わたしの神様』(幻冬舎)など。エッセイに『るるらいらい』(講談社)など。
現在は、家族(夫と2人の息子)の拠点をオーストラリア・パースに移し、日本と往復する生活。