気づいた人からきれいになれる。

NEW2020.1.15

第5回

旅先のアムステルダムで思い出す、過去の旅の寄る辺なき風景 その1

life style

文・小島慶子

 仕事で、アムステルダムに行ってきました。ヨーロッパは、6年前に家族で行ったロンドン以来。オランダは未踏の地です。
 毎月のフライトは日豪間の南北移動なので東京との時差は1時間、ひたすら太平洋上を行きますが、今回は東西移動で時差は7時間、広大なユーラシア大陸の北辺を延々と飛ぶ旅です。機内の画面に表示される飛行経路を見て「うわ、ロシア上空だ!北極が近い!」と大興奮。何しろ私が住んでいるパースは豪州大陸の西南端、地図でざっくり見れば南極に近い大都市なので(実際、南極観測船しらせが食料を積み込むために寄港します)、地球の北端近くを飛ぶなんてものすごいアウェー感です。
 しかし直行便で11時間のフライトも、寝てしまえばあっという間。到着したアムステルダムは、明るい日差しの降り注ぐ初夏の午後でした。スキポール空港から電車で20分ほどのアムステルダム中央駅広場に降り立つと、古い教会の鐘の音がリンドンリンドンと響き渡って、うおおおヨーロッパだああと一気にテンションが上がります。
 旧市街には運河が縦横に巡っており、古い建築物と現代的で斬新なビルが併存しています。地元の人も観光客も人種は様々で、目にも耳にも何かと情報が多くて忙しい。古都なのでしっとりしているかと思いきや、大賑わいなのでした。
 夏場は夜10時まで日が暮れないというので、到着早々最終入館でゴッホミュージアムへ。地下に掘り抜いた明るい吹き抜けが印象的でした。夕食はホテルのコンシェルジュが勧めてくれた運河沿いのレストランに行ったのですが「本日キッチン故障のため料理は出せません」という衝撃の張り紙が。運河沿いのテーブルは満席で、みんなビールを飲みながらワイワイおしゃべりしています。
 運河の向こう岸には、地面の上ではなく、水の中に家が建っていました。水面を眺めながら窓辺に座ってビールを飲んでいるおじさんもいて、実にアムスめいた眺めなのでした。
 ビールで空き腹を満たすわけにもいかず、同行した女性担当者と一緒に近くのイタリアン料理店に入り、そこそこの料理を食べていると、途中で「キッチンが故障したのでもう料理は出せないけどデザートならあるよ」と告げる店員。建物が古いから色々あるんだろうけど、君たち商売は大丈夫なのか。メインの豚肉の煮込みはギリギリ間に合って良かったよ……。初日からいきなりの欧州ショックに感慨を深めつつ、まだまだ明るい午後9時の街をゆるゆる歩いて宿まで戻りました。
 滞在中、昼間は窓のない会議室に缶詰だったので、そのほかの観光らしい観光といえば仕事の懇親会を兼ねた運河クルーズと、フライト直前に駆け足で見たアムステルダム国立美術館ぐらい。

こじまけいこ

こじまけいこ/1972年生まれ。エッセイスト、タレント。学習院大学を卒業後、1995年TBSに入社。2010年退社。テレビ・ラジオ出演、連載多数。著書に小説『ホライズン』(文芸春秋社)、『わたしの神様』(幻冬舎)など。エッセイに『るるらいらい』(講談社)など。
現在は、家族(夫と2人の息子)の拠点をオーストラリア・パースに移し、日本と往復する生活。