気づいた人からきれいになれる。

NEW2020.2.20

第6回

「きれいでいなさい」。亡き恩人の言葉が46歳の今、より深いものになった。 その1

life style

文・小島慶子

 「とにかくきれいでいてね。仕事サボってもいいから、美容には手を抜かないで」
 これは亡くなった私の恩人の言葉です。仕事の相談相手であり、放送業界で仕事をする上でのメンターでもありました。テレビに出る仕事をする上での心得としてそう言ってくれたのだと思います。手を抜かなければ、40代でも80代でもきれいでいられるんだよと。
 美容に手を抜かないというと、莫大なお金をかけて高い化粧品を使うとか、施術で20代の見た目を維持するとか考えがちですが、恩人が私に言ってくれた言葉は、一義的には手入れを怠るなということでしたが、核心部分はそういうことではなかったように思います。自分にも世の中にも、いつも関心を持っていることが大事だよという意味だったと思うのです。「いろんな知見を広めて、発信し続けることが大事だよ」というのもお決まりの言葉。冒頭の言葉とともに、恩人の遺言だと思って繰り返し思い出しています。
 先日、テレビを見ていたら知人がちらっと映っていました。ある学者の仕事ぶりを伝えるシーンにほんの一瞬、書籍の担当編集者として映っただけです。私は人の顔を覚えるのがとても苦手なので、初めはそれが知人だとは気がつきませんでした。ただ「あ、きれいな人だな」と思ったのです。染めていないショートカットの髪に、化粧気のない肌。けれど著者と一緒に書籍に載せる写真を選んでいる表情はハッとするほど目を引き、清潔で知的で、テレビなのになぜかいい匂いがするような気がしました。すうっと甘い、白檀のような上品な香り。
 番組を見終わって、忘れがたいそのシーンを思い出すうちに、もしかして、あの人ではないかしら?という気がしてきました。まだ一度しか会ったことのない彼女は小さな出版社の編集者で、第一印象は「地味な人だなあ」でした。テレビに映っていた女性は確かに彼女のようだけど、でも、あの人、あんなにきれいだったっけ?
 ちょうど打ち合わせの機会があったので、思い切ってご本人に聞いてみました。やはり正解。ほんの一瞬なのによく気がつきましたね、と笑っています。その笑顔は、前回初めて会った時よりも柔らかな、あのテレビの笑顔に似ていました。一緒にランチしながらの打ち合わせ。彼女のオススメの住宅地の中の小さなフレンチレストランで、美味しいトビウオと有機野菜のソテーを頂きながら、私は一見飾り気のない彼女の柔らかな魅力にだんだんと気がついていきました。

こじまけいこ

こじまけいこ/1972年生まれ。エッセイスト、タレント。学習院大学を卒業後、1995年TBSに入社。2010年退社。テレビ・ラジオ出演、連載多数。著書に小説『ホライズン』(文芸春秋社)、『わたしの神様』(幻冬舎)など。エッセイに『るるらいらい』(講談社)など。
現在は、家族(夫と2人の息子)の拠点をオーストラリア・パースに移し、日本と往復する生活。