気づいた人からきれいになれる。

NEW2020.3.2

第7回

好きな人を無理やり探すくらいなら、いっそもう一度、全部の恋をやり直したい。 その1

life style

文・小島慶子

 この頃、恋愛疲れしています。いえ、恋してるんじゃないんです。「恋をしろ」って言われることに、なんだか疲れてきちゃった。雑誌の見出しには『40代の恋愛』『50代からが本当の恋』なんて見出しが踊り、なんだかやたら中年恋愛推しです。ワイドショーと週刊誌は著名人の不倫をコテンパンに叩いているのに、市井の人々は婚外ラブ祭りって、どういうことでしょう。
 先日、長く海外で暮らしている同い年(46歳)の友人が日本に来たのでお茶をしたら「ねえねえ、日本の50代の人ってみーーーんな不倫してるの?久々に帰って来たら会う人会う人、男も女も、なんであんなに不倫話ばっかりするのかとびっくりしちゃった」と苦笑していました。ラテンの国で暮らす彼女もドン引きの浮気大国ニッポン。50代の恋愛市場がそんなに熱いとは知りませんでした。
 人数ばかり多くてまとまりがないポストバブル世代の若者だった私たちからすると、やっぱりバブル先輩たちの自己肯定感の高さにはかなわないねえと思わずため息が出ます。20代で恋愛のことばっかり考えて都会で遊びまくった人々は、50代になっても枯れないのでしょうか。雑誌を読むのはその世代とも言われていますから、やたらと中年の恋が取り上げられるのかも。
 この前もこんなことがありました。「ねえ小島さん、今は人生100年時代よ。子供が自立したら私、今の旦那と別れて恋人を探すの」
 中学生のお子さんがいる50代半ばの彼女はキラキラと目を輝かせて、少女のように語りました。その眩しさに目を細めながら、私は恋に落ちるってどんな感じなのかがもはや思い出せません。「子供がいない残り半分の人生を、子育てパートナーの男と過ごしてもしょうがないじゃない?最後は、男と女の関係で愛されて死にたい」
 そう語る彼女は確かにモテそうです。仕事もあるしおしゃれだし、知的な佇まいには成熟した色香が漂っています。どうも彼女がそう考えるに至ったのは、夫の不倫が原因のようです。「あの時、はっきりわかったのよね。彼が浮気したのが悲しいなんて思わなかった。子育て中なのに何してんのよ、子供への影響考えろよ、という怒りしかなかったの。もう、男としては必要としてないんだなって確認できて、むしろよかった」
 という言葉を聞いて、ハッとしました。確かに、子育てパートナーとしての夫は必要だけど、それが終わったら私と彼の間に、いったい何が残るんだろう?ずっと封印していた恨みつらみが吹き出して、それで……やがて時とともに、労りに変わるのかな。それでいいのかな?「だから今は、誰かいい人いないかなって、いつもアンテナ張ってるの。もう、仕事の会合とか出るのが楽しくって!」未来の恋を探している彼女の自信に満ちた笑顔を前に言葉もなく、私は老婆のように静かに目を伏せたのでした。

こじまけいこ

こじまけいこ/1972年生まれ。エッセイスト、タレント。学習院大学を卒業後、1995年TBSに入社。2010年退社。テレビ・ラジオ出演、連載多数。著書に小説『ホライズン』(文芸春秋社)、『わたしの神様』(幻冬舎)など。エッセイに『るるらいらい』(講談社)など。
現在は、家族(夫と2人の息子)の拠点をオーストラリア・パースに移し、日本と往復する生活。