気づいた人からきれいになれる。

NEW2020.3.2

第7回

好きな人を無理やり探すくらいなら、いっそもう一度、全部の恋をやり直したい。 その2

life style

文・小島慶子

 またある時はこんなことが。
 浮気がバレて最近離婚した50代の男性です。離婚ハイ状態なのか、仕事のメールなのに、やたら恋愛の素晴らしさを説いてくるのです。「小島さん、恋してますか?本物の恋は結婚してからですよ。それをお互いに詮索しないのが大人のマナーってものです。幾つになっても情欲は枯れないものなのです!」
 わかった、新しい恋人とラブラブなのはいいが、私に語らず私小説にでもしてくれ。と返信するわけにもいかず、「そうですねー、恋は雷だから避けられないって、寂聴さんも言ってましたね!だけど私は心がリアルに出家したみたいで全然興味がわかないんです」
 と返したら、彼はヒートアップ。「恋は興味でするものではないですよ!一目見た瞬間から、文字どおり落ちるものなのです。その醍醐味は、既婚者にしかわかりません」
 と論理の飛躍も甚だしい。で、なんで私はよその人に半ば叱られながら、お前も恋愛をしろと言われなきゃならんのでしょう。
 今から30年くらい前は、テレビが全国民共通の娯楽でした。でもって、毎クール毎クール、おしゃれな恋愛ドラマばっかりが放送されて、広告から何から目に入るメディアのあらゆる情報が「恋」がらみでした。まあ、若い私にはそう見えたわけですよ。流行りの歌も切ない恋歌ばかり、恋人がいないのは恥ずかしいことで、何時間も長電話しては、互いの恋の打ち明け話をするのが若者のコミュニケーション。デートスポット情報満載の雑誌の発売を毎週楽しみにして、ドライブではお気に入りの曲を聴いて。ちょっと尋常じゃないほど全社会が発情している感じでした。恋愛がお金になる時代だったんですね。
 その頃、まさにドラマのような恋を謳歌した人々が、子育ての手が離れ、小金と社会的な地位と時間の自由を手にして、今再びの恋愛ブームってことなんでしょう。本当の大人は、誰にも言わずに温めているはず。楽しいのはわかったけど、人には押し付けないでね。
 結婚していようがいまいが、人を好きになってしまうことはあるでしょう。
 それはお腹が空くとか眠くなるとかと一緒で、能動態でも受動態でもない、しようと思ったのでも無理やりさせられたのでもない、自然発生的なものです。どうしようもなく誰かを好きになってしまうことがあるし、逆に恋をしろと言われたからってできるものではないのです。
 と言いながら、恋愛回路が退化した自分を寂しく感じるのも確か。私、このまま二度と恋なんかしないで死ぬのかな。誰かを好きになって、やっぱり生きててよかったとか、思ってみたい。けれど、海に適応した鯨が二度と陸に上がることはないように、きっと今さら元の世界に戻っても、身動きがとれなくなって干上がるだけなんだろうと思います。

こじまけいこ

こじまけいこ/1972年生まれ。エッセイスト、タレント。学習院大学を卒業後、1995年TBSに入社。2010年退社。テレビ・ラジオ出演、連載多数。著書に小説『ホライズン』(文芸春秋社)、『わたしの神様』(幻冬舎)など。エッセイに『るるらいらい』(講談社)など。
現在は、家族(夫と2人の息子)の拠点をオーストラリア・パースに移し、日本と往復する生活。