気づいた人からきれいになれる。

NEW2020.4.10

第8回

古い男友達が父親になって考えたこと。 その1

life style

文・小島慶子

 20代の頃に一緒に過ごしていた彼とは、大人になってからまた縁が繋がり、互いの苦労も見てきた仲。しょっちゅう会うわけじゃないけど、たまに連絡を取り合ってはご飯を食べます。
 学生時代は暇だったし、毎日顔を合わせていろんな話もしたから、彼がどんな人物かだいたい知っているつもりでいました。どんな人物ってつまり、根っこのところの人柄とか、ものの感じ方とか。
 若かったから、うんと近くなった時期もありました。恋なのか友情なのか習慣なのか直感なのか、その全部だったのかもしれないけれど、ぐんぐん世界が広がっていく時期を一緒に走り抜けた同志でもあったんです。
 お互いに仕事を始め、家庭を持ち、長い時間が経って、互いの弱点というか、限界みたいなものも見えてきた40代。踏み込まないようしている領域もある中で、彼が傷ついて、恋をして、いろんなものと葛藤しているのを薄々感じることもありました。
 昔だったら「なんか悩んでるの?何があったの?」なんてこちらから聞いたと思う。でも察しの悪い私でもさすがに、ここはまだ触っちゃいけないよなあという気がして、黙っていました。それに正直言って、たまに会う友達の私生活に踏み込んでいくほどこちらも暇ではない。何かあったら言ってくれるだろうなと、昔馴染みの気安さで放っておいたんです。
 そしたら、子供が生まれたというではありませんか!!写真を見れば、どこか彼と似ている男の子。うわー、感動。全然血が繋がっていないのに、親戚のおばちゃんのような気持ちです。彼も手放しで喜んでいて、その様子が何やらもう、泣けてきます。他人の子供のお誕生にここまで感動したのは初めてかも。どうしてこんなに親しく感じるのか、なんだか不思議でした。
 思わず想像しました。もしもあのままうんと親しくなって、彼と結婚していたらどうだったろう。こんな風に目を細める若い彼を、自分の伴侶として眺める人生だったら。そしたら、ああ、それもあったかもしれないなあとさしたる感動もなく容易に思い描けました。でも、今みたいな純粋な気持ちで彼の幸せを祝福してあげることはできなかったかもしれない。一緒に生きるとどうしても見たくないものを見てしまうし、生活って結構、容赦ないから。
 ともに子供の命に責任を負うわけだから、夫婦って結構のっぴきならないものがあります。その伴侶としてやつはどうであろうかと考えたら……。
 そしたら、結構良さそうな気がしたんです。がーん。私、相手を間違えたのかも。

こじまけいこ

こじまけいこ/1972年生まれ。エッセイスト、タレント。学習院大学を卒業後、1995年TBSに入社。2010年退社。テレビ・ラジオ出演、連載多数。著書に小説『ホライズン』(文芸春秋社)、『わたしの神様』(幻冬舎)など。エッセイに『るるらいらい』(講談社)など。
現在は、家族(夫と2人の息子)の拠点をオーストラリア・パースに移し、日本と往復する生活。